野村総研の100%出資の子会社のユビークリンクのブロガーミーティングがありましたので参加しました。ユビークリンクは携帯でナビ情報を利用している方は、すでにご存じかもしれませんが、ドコモ、au、ソフトバンク、iPhoneにナビサービスを提供している企業です。
わたし自身、GPSを使った位置情報を取り扱う「自然派空間」などのシステムを開発していますので、こうしたテーマは時間が許す限り出席をしています。
わたしのテーマとユビークリンクのテーマは全く違っているのですが、ユビークリンクがおまけで付けた機能が、既にもっと大規模で精密にわたしのシステムでは取り入れているなど、違いがわかり興味深かったです。
株式会社ユビークリンクと携帯総合ナビゲーション「全力案内!」
ユビークリンク社長 増田有孝さんから会社の案内とサービスの紹介がありました。
ユビークリンクは昨年の8月に野村総研の100%出資で設立された会社です。
親会社の野村総研とは企業に対してコンサルティングをする会社、顧客は6千社を数えるそうです。
エコノミストがテレビに出ているので知名度は高いですが、一般の個人とは接触はない会社です。
「ITS」高度な交通情報がこの日のキーワードの一つです。
なぜ、野村総研がユビークリンクを会社として独立させたのか?
一つは社員にITSに詳しい人がいたからです。ITSに携わって18年を数える佐藤さんです。ITSの初期から携わっている方だそうです。
野村総研には異才を組み合わせて新しいビジネスを組み立てる社風があるそうです。ユビークリンクを例に挙げると、システムを組み立てるのが得意な人、ITSに詳しい人などが集まっています。ユビークリンクの社員数は総勢10人。ブロガーミーティングで話を聞いただけでユビークリンクの企業としての全容はつかめませんでしたが、現在展開している事業は「全力案内」だけのようです。ただ、いくつものプランを持っていて、優先順位をつけて今後、事業展開を図るようです。
今は携帯にナビゲーション案内をサービスすることのみとなっています。携帯電話のサービスの「全力案内」だけで、現時点での規模は小さいですが、将来はカーナビなどとの連携を考えています。
全力案内とは?
有料の携帯電話のサービスです。提携しているキャリアはドコモ、au、ソフトバンク、iPhone。
主な機能は、携帯電話を利用したナビゲーションサービスです。電車の乗り換え案内機能などがあります。
他社と比べての特徴として、ユーザーが持っている定期券を利用して乗り換えられるルートを提供するサービスなども提供しています。
カーナビ的な機能も有しています。クルマで到着時刻を指定して、出発時刻を逆算するサービスがあります。
他社にないサービス
グループナビ、仲間との連絡を取れるサービスです。仲間同士の携帯電話に登録をしてグループをつくり、そのグループのメンバーを一つの地図上に表示するというものです。
グルナビ、楽天トラベルなどとも連携しているそうです。
基幹となるサービスはナビタイムとバッティングするみたいです。違いを打ち出そうともがいているように感じました。グループナビ「仲間の位置を一枚の地図に表示させられるサービス」の展開などが、差別化の一手段なのでしょう。
VICSとカーナビの話し
「2001年からカーナビが普及し始めたので交通情報を流している主体が官から民へ移管していった」という点がおもしろかったです。元々は官が民に流していたのを、民が奪い取ったというのが痛快に聞こえました。
カーナビに変化をもたらしたVICSとは?
そもそもVICSはなぜ成功したか?。理由は簡単でした。
国民の税金で集めた情報をただで使っているから、投資が必要ないからです。
利用するユーザーも料金の月々の支払いがなく、カーナビの中に料金が含まれていている。お金を支払っているという負担の実感がないからです。
視点を変えれば詐欺的な料金の徴収システムといえるでしょう。公的な機関がやれば詐欺も合法となるのかとも思います。
VICSは固定のセンサーがあって、その下を車が通ると関知するように作られています。
センサーは都道府県警が設置したものと、民間会社が設置したものがあります。
市場に発売されているカーナビにVICSが搭載されている割合は、7割を越えています。
国による違い
国による共通点は、お金は政府から出ていることです。
日本は機械(固定センサー)で情報を収集している。
欧州は人が渋滞情報を人海戦術で収集している。
アメリカは大部分が固定センサーで情報を収集しているが、国土が広いので一部人工衛星を利用している。
カーナビが表示する情報の話し
当たり前ですが、以外に知られていないのは、GPSは位置情報を取得するだけと言うことです。GPSが位置情報以外を送ることはあり得ません。
渋滞情報などの付加の情報はFM放送で流しています。カーナビがそれを受信して表示するわけです。
プローブ情報の話し
プローブとは(Probe)とは?
針を探すの意味。転じて移動しているカーナビや携帯電話を探す意味となります。。
ドライバーは「空き道」を求めているそうです。
走行距離が短い、道幅が広い狭いということを求めてはいません。
空き道=プローブ情報です。
日本の国土の3.5m以上の道路の総延長は182万km
5.5m以上の道路の総延長は83万km
しかしVICSは7万km、8%を提供しているに過ぎません。
従来のVICSセンサーは、道路の下を通った車だけを関知していますから、すいている道(空き道)はわからないです。
ユビークリンクが実現したプローブ技術を取り入れた仕組みで、渋滞を避けて空き道を案内してくれるシステムが構築出来ました。
プローブ情報を扱っている日本の会社
ホンダ、ニッサン、トヨタ、パイオニア、ユビークリンク
車メーカーはユーザーから同意を得て取り付けているそうです。自社の車の購入者の走行する車両から情報を得ています。
ユビークリンクはタクシー、携帯電話を利用者にして、空き道情報を得ています。
車メーカーやパイオニアはユーザーや情報を囲い込んでしまっていて外部に公表したがらないそうです。
比較試験
3台の比較試験(ナビ無し、VICSのみのナビ、プローブ情報を利用しているナビ)
品川から日暮里まで。
カーナビなしの車との時間短縮の効果、プローブ情報を利用している「全力案内」を使うと19%から33%の短縮効果が得られる実験データがあるそうです。
プローブ情報(全力案内)を使うと到着時間の誤差は1割。
燃料の消費量はVICSなら-2%、VICS+プローブなら-12から-14%
プローブのナビは最短の距離を指示する。遠回りを選択するということはない。
国道15号(第一京浜)を基準ルートとして選択した実験を行いました。
走られた方はご存じと思いますが、国道15号はほぼ直線の道路です。
しかし、プローブ情報を使ったナビは第一京浜はほとんど通らずに、海岸道路を主に案内しました。これは海岸沿いの道路がすいているからです。
プローブ情報はユーザーと地球に優しい
CO2の排出の低減などに役立ちます。つまり、地球の温暖化防止に一役買うわけです。
渋滞がなくなるのでユーザーの負担を軽減します。誰でも渋滞は嫌なものです。いらいらするだけではなく貴重な時間も失うからです。
カーナビの進化
知らないところへ行くルート探索から、センサー型へ変化しました。
つまり目的地への最短距離ルート、最短時間のルートを案内するシステムになったと言うことです。
新交通情報提供システム UTMSについて
株式会社ユビークリンク
サービスマネージメント
本田さん
ITS業界は情報を非常に外に出したがらない。探したがカーナビについてかかれた本がなかった。
1.ルート検索の仕組み
カーナビのルートはどうやって作られているのか、カーナビはどうやってルートを選んでいるのか。
道路リンクと言うものがあります。
道路リンクは交差点から交差点までを一つの区間としています。
これ以上の詳しい説明が省かれたので、以下はわたしの想像ですが、一つの区間を組み合わせてルートを構築しているのだと思います。
全道路182万km
基本道路リンク82万km(ここまでを提供できるのがプローブ情報を利用したユビークリンク)
ルートリンク(企業秘密で各社とも非公開だそうです)
VICS定義済みリンク34万km
VICS交通情報提供リンク7万km(センサーが設置されている道路)
日本は国土が狭いが道路が多い、だからカーナビから細かくルートを指示されます。
細かく指示されるルートと時間の算出の方法ですが、右折は時間が掛かることなども取り入れて計算しているそうです。
VICSリアル交通情報(短い距離)、VICS予測交通情報(中くらいの距離)、VICS統計交通情報(長距離で予測が困難な場合)。
大きく3つの情報があるそうです。距離が長いと、正確な予想は困難ですから統計情報が必要となってくるのでしょう。
例えば銀座から品川までならリアルタイムの情報で渋滞などを把握出来ますが、銀座から鹿児島市まではリアルタイムで情報を予測するのは現実的ではありません。渋滞や道路工事など状況が刻々と変化する不安定な要素が多いからです。
2.プローブ交通情報の仕組み
タクシーなどの車両の位置情報からリアルタイムの交通情報や統計による交通情報を生成します。
タクシーの無線がアナログからデジタルに変わったので、分単位の情報が取得できるようになったそうです。デジタル通信の普及がこの様な所にまで影響を及ぼしているという点で、興味深い話でした。
情報の取得の仕方
情報を取得する対象のタクシーは必ずしも道を素直に走るとは限りません。お客の乗り降り、交差点でない箇所での一時停止や徐行など、不自然な動きもします。これは車を運転したことのある方なら分かると思います。プローブ技術ではこうした異常データを削除するアルゴリズムを導入しているそうです。
プローブ交通情報がカバーしているのは首都圏、大阪、神戸、名古屋、福岡、札幌、仙台、広島。全て大都市です。
※:採算を考えると地方は無視せざるを得ないと言うことでしょう。地方と大都市の情報格差を助長していると言えなくもありません。情報の格差は経済の格差に結びつきやすいものです。一企業では採算を度外視してはなりませんが、公的機関がこうした格差を修正する動きをしてくれることを、わたしは望みます。
ITS業界ではメッシュと呼ぶ、横10km、縦9km(地球が丸いため)の四角い地図があります。
1次メッシュ、2次メッシュ、3次メッシュとあるそうです。このメッシュ上の地図にカーナビのルートなどが表示されます。
ITS業界では3万台ないと実用的な情報が提供できないといわれていが、プローブのタクシーは1万1千台。
都心部と地方では、情報をほしがる周期が違うので、3万台はいらないと判断しているそうです。
現時点でのプローブ交通情報に対するユーザーの反応は好意的なものが多いそうです。
3.近未来テレマティクス
現在はカーナビに通信機能がついていて、いろいろな情報がとれますが、その情報はFM波で受信しています。FM波では送信出来るデータ量(情報量)が少ないので限界があります。
このため携帯電話からブルートゥースなどを通してカーナビに情報を提供するようになりました。
携帯電話を使ったシステムでは送受信出来る情報量が大きいので、センターに情報を送って折り返し、ルート情報を送り返してもらいます。
ユビークリンクが目指すポジションは、クライアントは「カーメーカー、カーナビメーカー、配送物流業者」などを想定しています。
全力案内のサービスの再紹介
マルチキャリア、マルチプラットフォーム(キャリア、つまり携帯電話会社や機種を問わない)
プローブ技術を応用したサービス(リアルタイムでグループを表示)の提供。
iPhonではカーナビの機能を提供していますが、VICSは有料なので、iPhoneではプローブ情報だけを提供している。
質疑応答
- 携帯電話から位置情報だけをとっているのであれば、車なのか自転車なのか、徒歩なのか区別が付くのか?
- カーナビと徒歩ナビでフィルタリングしている。
バイクや自転車をどう区別するのか?
すべてのデータを使うのではない。ロジックをもうけて異常なデータは弾いている。 - タクシーの料金予想、タクシー料金+高速料金を払うほうが安くできるのか、下を走ったほうが安くできるのか?そうしたサービスは提供出来ないのか?
- 今のところ、そこまでは対応していない。
タクシー料金の参考料金を表示するサービスを提供している。
プローブ情報の収集方法、タクシーに搭載したてあるデジタル無線を経由してデータを送信してもらっている。
※:以下は蛇足ですが、面白い話でしたので、書き留めておきます。
タクシー会社は位置情報を常に把握している。
お客が近くにいるタクシーにインジケーターを表示して、運転手は了解のボタンを押す。お客の位置はカーナビ上に表示されている。 - 便利ナビ機能。例えば道の駅を表示、観光が目的ならば迂回路をとっても海岸道路をとるようにルートを案内できないか?また、広告になるようなルートを表示させる機能もあるのではないか?
- 現在は学習効果を持ったナビがあるので、ユーザーの嗜好を走っているうちに学習している。
カーナビがそこまで出来ればすごいと思う。
全力案内では眺めのよいおすすめルートを案内できるサービスを考えている。/dd>
懇親会
以下は、懇親会で話をした内容を書き留めて置いたものです。
プローブ情報の収集方法はタクシーからの情報と、全力案内のユーザーの携帯電話からの情報がある。
携帯電話のナビのデメリットは、電波が届く範囲ででしか利用できないことです。
対応策としてテレマテックスなどがあるそうです。
PLDは処理が追いつかない、パイオニアのサービスのエアナビはもう少し高いそうです。
道案内のナビ、目標地点を入力してカーナビに案内をさせると、目標地点に近づくとナビを終了しますといわれて放り出されるユーザーがいました。
今のGPSの精度の問題もあるので、ルート案内のモード以外を使うことで対処した法がよいそうです。
欧米では、自動車メーカーがプローブ情報の収集などは行ってはいないそうです。
わたしも以前から気になっていたのですが、日本のメーカーというのは全てを自社で製造したがる傾向にあります。
一例を挙げると、第二次大戦中の名機の隼戦闘機はボディが中島(いまの富士重工)、エンジンも中島でした。これがアメリカだと、P?51ムスタングはボディはノースアメリカン、エンジンは英国のロールスロイスです。ボディとエンジンは基本的に別メーカーが設計から製造までを行いました。飛行機に限って言うと今も同じです。
日本は5つの諸官庁が絡んでいるので、官庁との折衝が大変だそうです。
警察、国土交通省は道路、総務省は電波、経済産業省は標準化などを管轄しています。
iPhoneにはヘディングアップ機能などを搭載しています。ヘディングアップ機能というのは、自分の進行方向に対して常に地図が上を向いている機能です。例えばgoogle mapsでは常に北を上にした表示しか出来ません。
iPhoneにはガイドラインがあって、音声案内などができないそうです。
カーナビとして使うことをApple社ではやってほしくないのではないかと思われます。ユビークリンクなら、技術的には可能だそうです。
以下、当日に流されたIPhoneでカーナビライクな使い方の動画を撮影したものです。
わたしの感想
わたし自身、GPSを取り入れたシステムの開発をしていますので、興味深く話を聞きました。しかし、デバイスが携帯電話に限られているので、話されている内容についていけないことがしばしばありました。わたしはキャリア間の互換性の問題などがあるため、携帯電話向けのサイトは構築したことがほとんどないからです。
位置情報を得てそれを利用する、一番身近なデバイスが携帯電話なので、全力案内の様にナビゲーションサービスは携帯電話が対象となるのでしょう。
わたしにとってはGPSやカーナビはそれほど目新しい存在ではないのですが、この日、取り上げられたVICSとなると、導入前後のいきさつは興味を持ってみていましたがいつの間にか興味をなくして忘れていました。ユビークリンクがVICSの存在を前提に話を進めて往くので、どうしても話についてゆけない部分があります。
また、ユビークリンクのサービスのエリアが首都圏と大阪や名古屋などの大都市圏に限られていて、わたしの住んでいるような地方都市はサービスの圏外となっていることも興味を持ちにくくしていたようです。
都市部の渋滞には役立つものかもしれませんが、ではわたしに直接役に立つサービスかというと、全く縁がないといえそうです。
ついでに言うと、わたしはユビークリンクとは全く逆な存在です。
大都市以外の道路情報はわたしの頭の中に全て詰まっています。オートバイで日本中を15万km以上走っていますので、主要な道路では走っていない道路の方が少ないでしょう。農道や林道などは国土交通省の管轄ではないので最新の地図でも掲載されていないことがありますが、わたしは実際に走っているので知っています。
ただし例外が大都市です。渋滞が嫌いなので、大都市には近づきません。だから道路もほとんど知りません。わたしがユビークリンクを使えば完璧なナビゲーションが出来るのかもしれません。
先月に参加したジオメディアでも紹介されるサービスのほとんどが、デバイスを携帯電話に絞っていたので、位置情報を組み入れたサービスは携帯電話でないとユーザーに利用されにくいと感じました。
今後、わたしとしても携帯電話からも利用できるようなサービスの展開をしてゆかざるを得ないのかなと、思います。
1/13 2009 TREviewへのリンクを追加しました。
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